田川市に進出した企業事例
株式会社コミクリ

2017年1月、田川市に進出した株式会社コミクリは、田川ふるさとテレワーク&コワーキングスペース「おしごとテラスkatete(カテテ)」を後藤寺商店街にオープンし、少しの時間でも働きたい方、時間に縛られずに働きたい方を対象に、スキルとやりたい仕事をマッチングするテレワーク事業を展開しています。

テレワークセンター名の「カテテ」は、「仲間に入れて」の意味を持つ方言「かてて」と、明日への「糧」となるようにとの想いでつけられました。

子育て中の方や家族の介護をされている方でも、チャットツールやビデオ会議システムなどICT(情報通信技術)で連絡を取り合い、場所や時間にとらわれずに仕事ができます。

こうしたテレワークの取り組みは、スキルの遊休資産活用(シェアリングエコノミー )として全国的にも広がっています。ワークライフバランスの実現 、人口減少時代における労働力人口の確保、地域の活性化などへも寄与する、働き方改革実現の切り札にもなっています。
なぜコミクリが田川市に進出したのか、代表取締役社長の佐藤 弘人氏と現地で働く柚木園(ゆのきぞの) あさぎ氏、長野 優子氏、田川市元職員の花石 恵子氏にお話を聞きました。

株式会社コミクリ 代表取締役 佐藤 弘人氏

なぜ、田川市に進出したのですか?

佐藤社長:2009年にコミクリを立ち上げ、ITを駆使し、人・情報・地域を繋ぎ、地域力を高める事業を始めました。
東京でビジネスをすることは難しくありません。地域でどのように展開すればいいか試行錯誤をしながらも、島根県松江市や長野県塩尻市で図書館システムの開発をしました。
その中で、塩尻市が取組まれていた、ひとり親家庭を支援する事業に参画したことを契機に、
ママを中心とした時間や場所に制約ある人が、テレワークを活用することで働きやすくする環境づくりの事業を始めました。

実は、私は田川の出身です。田川は炭坑の町で有名なところです。そのためか、「気の荒い人が多い。田川の人に会ったら目をそらせ」といった変なイメージがあったものです。そんな地元のイメージを一新させ、田川の女性が輝ける町、子どもが将来地元で働きたいと思える町にしたいという想いもありました。これまでコミクリが地域で築いてきた働く環境づくりのノウハウを活かし、田川でも取り組んでみたいと思ったのがきっかけです。

進出時、地元の反応はどうでしたか?

佐藤社長:コミクリをパートナーとして捉えてくれて、一緒になって進出をサポートしてくれました。特に、田川市の元職員で、地元でママ向けセミナーなど地域コミュニティを立ち上げている花石恵子さんや市長が熱かったですね。私たちの取り組むテレワーク事業を田川で推進すれば、これまで働きたくてもマッチする仕事がなかった田川の女性たちにとって大変喜ばれるだろう、とコミクリの進出に大きな期待を寄せてくれるのを感じました。

ただ、正直テレワーク事業だけでは会社として収益基盤を作るのは難しく、不安はありました。しかし、地元の皆さんに喜んでもらえること、地元の人が地元で働いて収入を得られる仕組みをつくることは、素晴らしいことだと思うのです。まずは、働く意欲、働く環境を整えた上で、次のステップとしてテレワークだけではない新しいIT事業を展開したいと考えています。同時に、起業支援をすることで、地元の若い人がコミクリに集まってくれれば嬉しいですね。

田川での地域活性への想いを語ってくれた佐藤社長。野球でスカウトを受けて山口県の高校へ進学し、大学卒業後はIT企業へ就職されました。コミクリ創業後は複数の地域へ進出を果たし、ITを活用した事業を地域で展開しています。田川市進出は佐藤社長の出身地であったことも要因ですが、田川市の”人の魅力”も決め手になったようです。佐藤社長のインタビューにも登場した、田川市元職員(現・Community Design TAGAWA 代表)の花石 恵子氏にもお話を聞きました。

田川市元職員で地域コミュニティ事業を展開している花石 恵子氏

花石さんのプロフィールを教えてください。

花石氏:生まれも育ちも田川で、高校卒業後は田川市の職員として長年勤務していました。職員として仕事をする傍ら、市民ボランティア「TAGATAN CLUB」を立ち上げ、イベントやコンサートなどを企画運営していました。地元の人が「TAGATAN CLUB」の活動に喜んで参加してくれ、注目を集めていく中で、市役所を退職。その後も現在に至るまで、田川で生活しながら田川のための地域コミュニティづくりを通した事業を続けています。

佐藤社長やコミクリとの出会いは?

花石氏:佐藤社長が田川への進出を検討し始めた頃、田川市のIT企業の方から紹介があり、初めて佐藤社長と知り合いました。ITに詳しくないので最初は市役所の元上司に同席してもらい、お話を聞きました。子育てサイトの構築をされるなど、地域で展開している業務内容を知り、田川でもそのようなことができたら素晴らしいと感動しました。当時、コミクリが実施していた長崎県諫早市のワークショップに関わってほしいと佐藤社長から声を掛けられたのですが、音沙汰無しで。私があまりにも険しい目をして聞いていたようで、諫早のワークショップには興味がないと勘違いされてしまいました。

その後私が企画を持ち込んだ田川市の男女共同参画事業のイベントで、子育て応援講座の開催を佐藤社長に報告しました。すると、東京からわざわざ来てくれました。講座の参加者がちょうどテレワーク事業のターゲットとなるママたちで、佐藤社長を最後に紹介したところ、全員前のめりになって聴いていました。その様子から、田川市民の関心の高さを感じ、佐藤社長に「田川市に是非テレワーク事業を提案しましょう!」と持ち掛けたのです。市長・副市長・現場の職員全員を集めないと話が進みづらいと思ったので、田川市に関係者総勢15人のプレゼンの場を設けていただきました。
結果として、これがすごく良かった。佐藤社長が説明している途中で、市長が「これをやろう!」と言ったのです。副市長や現場の職員も「やろう!」と言って、誰一人反対する人はおらず、その場でコミクリの田川進出が決まりました。

デスクワーク以外にもイベントスペースとして使える快適なオフィス。奥には授乳やおむつ替えのできる部屋もあり

コミクリがオフィスを進出するまでのお話を聞かせてください。

花石氏:総務省の「ふるさとテレワーク推進事業」の補助金を使って、テレワーク事業の準備をスタートしました。田川市も含めたコンソーシアムで、主体はコミクリ。進出を決めてから補助金の申請まで約2ヶ月しかありませんでしたので、スピーディーに進めました。オフィスについては田川市役所産業振興課が一生懸命探してくれました。すぐに使えそうで立地の良い場所として、商店街振興組合が管理している空き店舗を使えるよう尽力してくれました。総務省の方には、「数ある申請団体の中でも、ここまで市と連携して取り組んでいる事例は初めてです」と言われたほどです。また、市民会館でシンポジウムを企画し、「テレワークとは何か?」をテーマに説明する場も設けました。
私は柚木園さんと一緒にチラシを作成し、集客をしました。市民が120名も集まってくれました。

田川市の魅力と進出検討している企業へメッセージを。

花石氏:市役所で働いていたとき、企業誘致というと工場誘致のような大規模なもので、そうしないと仕事は創出されないものだとずっと思っていました。しかしテレワーク事業が市民に喜ばれることを初めて知り、IT企業であればインフラが整っている田川でも仕事ができるし、ハード面でのコストも工場誘致に比べればそれほどかからないと思いました。

田川市は炭坑の町として栄え、炭坑労働者が各地からやって来てコミュニティを作っていった歴史ある地域です。閉鎖的な地域が多い中、実は「よそ者を受け入れる気質」がどこよりも顕著なのが田川の特長です。だからこそ、チャレンジする人を応援する風土があります。
地域で新しく何かを取り組みたい、地域の人を採用して事業をしたい企業には、とても馴染みやすい土地だと思います。

田川市役所の元職員でもある花石さんは、コミクリの田川進出1年目にオフィス「カテテ」のマネジャーに就任後、コミクリシニアアドバイザーを経て、田川で地域コミュニティ事業を展開しています。とても精力的に、田川のために取り組んでいて、今後進出する企業にとっても大変心強い田川のキーパーソンです。

最後に、田川オフィス「カテテ」で働く社員・スタッフにもお話を聞いてみました。

「カテテ」に勤務するコミクリ社員の柚木園 あさぎ氏

「カテテ」では現在、どのようなお仕事をされていますか?

柚木園氏:テレワーカーとして登録したい方への説明・面談と、登録したテレワーカーさんにお仕事を依頼するために、スキルと受注した仕事とのマッチング作業をしています。他にもクライアントとテレワーカーさんへの連絡・調整に、テレワーカーさんが提出した成果物のチェック・品質管理をしています。仕事の受注から成果物の納品まで全体的に行っています。

カテテで受注している仕事は毎回内容が異なり、その都度やり方が変わります。新しいツールを勉強したり、仕事内容を理解するまで時間がかかることもありますが、テレワーカーのみなさんは前向きにチャレンジしてお仕事を引き受けてくれます。また、わからないことがあればすぐ連絡をしてくれるので、作業をしているほかの方にもお伝えでき、チーム全体として作業効率が上がり、とても助かっています。「報連相」や、修正作業、時には指摘もしていただけるテレワーカーさんをみていると、田川の人の良さ、真面目さ、細やかさを感じます。

オープンから徐々に登録数・受注案件数が増え、1人でカテテの運営を行うのが難しくなってきました。
そこで、テレワーカーとして作業をしていた長野さんの仕事ぶりや人柄、コミュニケーション能力をみてアルバイトとして採用しました。長野さんが加わり、より受注を増やすことができました。

長野氏:カテテには、2017年10月にアルバイトとして入りました。仕事は、テレワーカーとして登録された後の事務作業やテレワーカーさんが提出した成果物のチェックを行っています。柚木園さんと連携しながら業務を行い、週3日、午前9時〜午後3時まで勤務しています。私はカテテができてすぐテレワーカーとして登録しましたが、カテテの勤務時間外はテレワーカーとして今も作業をしています。

事務作業を担当するスタッフ長野 優子氏

オープン当初目標としていた30名のテレワーカー登録はすぐに達成し、2019年8月現在は100名を突破。平均年齢は35歳、受注案件数は183件になっています。
カテテに関する詳細は、以下の公式サイトをご参照ください。

田川ふるさとテレワーク&コワーキングスペース「おしごとテラスkatete(カテテ)」
https://katete.co/
株式会社コミクリ
https://www.comcre.co.jp/

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